自立した大人たちが、ゆるくつながるシェアハウス

uni. 入居者さんと大家さん

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今出川のシェアハウス「uni.」は、全7室の男女ミックスのシェアハウスです。2022年末に完成し、この冬でちょうど1年を迎えます。現在は、20~40代の社会人ばかり、文化的でちょっと個性的な入居者さんが集まっています。
シェアハウスは、言葉は聞いたことがあるけれど、実態の生活は謎に包まれているもの。でも実は、普通の賃貸よりも、内装の雰囲気や運営方法など決める要素が多く、価値観の近い人が集まるケースが多くあります。特に、このuni.では、その傾向が強いように思います。今回、初期メンバーの一人が、仕事の都合で退去することになり、忘年会と送別会を兼ねて、大家さん主催で、焼肉パーティーが開催されたので、その雰囲気をお届けします。入居者同士、たまたま時間の合う数人で飲む機会はあっても、大勢で集まることは案外少ないようで、ひさびさの宴となりました。

赤いカーペットと木製家具で設えた共用ダイニング。テレビ台やキッチン棚は、大家さんのご家族の商い、西陣織の問屋業で使われていたもの。
個室は6畳以上と広め。洗面のある部屋も。収納カーテンは、大家さんの西陣織の反物をアレンジして、アッドスパイスにて製作。家具もカーテンも全部屋異なる。

―まず、皆さんがuni.を選んだ理由を教えてもらいたいのですが。

E:僕は香港出身で、日本に来てからいくつかシェアハウスに住んできましたが、前住んでいたところが20人くらいの学生ノリのところで、夜、あまり寝れなくてしんどかったんです。なので、人が多すぎないこと。料理が好きなので、キッチンが広いこと。デザイナーなので、部屋でもパソコンを広げて仕事するので部屋も広い。という理由で、ここを選びました。

一年前の歓迎会の時、香港出身のEさんがみんなにふるまってくれた香港料理が、中央に鎮座する牛バラの煮込み。巡回で訪問すると、キッチンから、美味しそうなスパイスの良い香りが漂うこともしばしば。

B:私は医療現場で働いていて、業界が狭いから、みんなつるむ習性があるんですよね。行動パターンも同じで。でも、私は、全然違う職種の人と関わってみたいと思って、ここにしました。

C:私も、伝統工芸の職人の人の中で仕事をしてきたので、もっといろんな考え方の人と会いたかったっていう期待があって、ここに住むことにしたけど、実際住むと、それ以上で、みんなが知らないことを教えてくれる楽しみがあります。

B:シェアハウスっていうと、違う意味の出会いって勘違いされることも多いけど、人生を豊かにする出会いがあるよね

まずは乾杯!お酒好きな入居者さんが多く、日本酒はリビングに常備。こだわりのマイお猪口を持っている人も多い。

―このリビングでは、皆さん、どんな感じで過ごされていますか?

D:だいたいリビングにいるメンバーは決まっていて、僕は割と常連メンバーですね。たまに、大家さんが遊びに来てくれて、その度ににお酒を差し入れてくれているので、それをいる人で飲んだりしています。

C:私、その時大家さんがお手紙を書いてくれて、それを読むのが楽しみなんです!筆文字で書いてあって。

大家さんが手土産のお酒(飲めないAさんのために、ノンアルもドリンクも持参される気遣い)とともに、必ずお手紙を添えてくれる。このお手紙を楽しみにしている入居者さんも。

―濡れ縁(渡り廊下)は、寒くないですか?京都の町家では当然なんですが、ここを通ってリビングに行くのは抵抗があったんじゃないかなと、少し心配していました。

B:え!私はこの家で一番この坪庭空間が気に入ってますよ!お風呂あがりと歯磨きは、必ずここでやっています、金魚と会話しながら(笑)。仕事柄外に出たりするのができないけど、私にとっては、外の空気を吸うのが好きで重要なんです。

金魚のいる坪庭。いわゆる京都らしい「濡れ縁」だが、京都が地元でない人も多いシェアハウスで、濡れ縁が受け入れられるかを実は気にしていた。一番目の入居者のAさんが内見学の時に「安藤忠雄の住吉の長屋みたいで、良いですね!」と言ってくれて、不安が払拭できた。

―それは聞けてよかったです!金魚といえば、大家さんと入居者さんと話の流れで金魚を飼うことになりましたが、飼育はうまくいってますか?

大家:私がゼネラルマネージャー(岸本のあだ名)の許可なしに、勝手に金魚を提案してしまいまして、失礼しました。もともとメダカを飼っていたつくばいなので、「静」の町家の中に、何か「動」があった方がいいかなと思いまして。金魚のお世話担当は、Cさんなんです。餌の問題があるから一人に任せた方がいいと思っていて、たまたま、みんなで飲んでた時に目が合って、任命させてもらいました。

C:きっかけはたしかにそうなんですけど、私も結構楽しんで金魚係をしてます。最近、あんなに細かった金魚も太ってきてくれた気がするし。あ、今日餌やりの日やった(スマホのスケジュール見つつ)!

― 一匹亡くなった時も、Eさんが率先して土に埋めてくれてましたよね。そういう嫌なことの始末ってできることじゃないから、感動していたんです。

―逆に、住んでいてしんどいことがあったら、これを機会に教えてください。

B:しんどいって感覚はないですね。生活時間がぎゅっと一緒じゃないのがいい。なんとなくの行動時間をみんなそれぞれ把握してて、その時間はご自由にどうぞという感じで。その辺は、みんなが大人で程よい距離感です。みんなが大人でよかったなって思います。

―ここで暮らしてから、周辺にお気に入りスポットはできましたか?

D:僕は通勤で出町柳を通るので、出町の商店街によく行きますね。かしわやでベーコン買ったりしています。今日の焼き肉の肉も、そのかしわやで鳥の焼いたのを買ってきて、ジビエ、牛豚と、全部あのあたりの別の店で買ってきました。それから、映画が好きなので、出町座でコアな映画を見て、自転車で帰ってくるみたいな。
 1時くらいまで仕事がかかった時は、そのままMETRO(クラブ)に行って、3時くらいに家に帰ってくるみたいな日もあります(笑)。

家の前のHiveCoffeeも、よく使ってます。週末、近所のコインランドリーに出す前に、タンブラーを渡しておいて、帰ってきたらコーヒーを受け取る、みたいなこともやってます

シェアハウスの前に焙煎も行うカフェHiveCoffee。日常のひとコマとして、よく利用している入居者さんもいる。

G:私は自転車で行ける丸太町で、パソコンしながら仕事できる「SCHOOL BUS COFFEE STOP KYOTO」っていうカフェが最近お気に入り。京都って、気兼ねなくパソコンを広げて、しかも美味しい店ってあんまりなくって。

D:確かにスタバ以外ないよね。

―大家さんは、皆さんの様子を聞いて、いかがでしょうか?

大家:僕は、古い家を残していく良さを、岸本さんに教えてもらったんです。いったん保管して使えるものを使おうってなって、岸本さんが使いたい物として付箋を貼ってて、「え!こんなベンチ一番に捨てるやん!」と思ってたから。
無価値だと思っていたけれど、ずっとここで代々自分の家族が商売して暮らしてきて、それがみんなに使ってもらえているのがすごく嬉しいですね。

僕の生活も、ここのおかげで確実に豊かになってる、楽しいですよ。定年した後に、年の離れた飲み仲間が増えて。みんなこだわりが強いから、認め合ってかつ自慢しあえるのも楽しいんです。

―まもなく退去されるDさん、最後に言っておきたいことはありますか?

D:僕も料理をよくするので、キッチンが広く使えたのが本当に良かったですね!自分以外にも料理好きな住人もいたし。生活ペースが違う人とは、なかなかタイミングは合わなかったですけど、気が合って時間の合う人は、よく一緒にいましたね。
部屋の広さは充分だったんですが、僕は本がとにかくたくさんあったので、人よりはだいぶ狭かったと思います。それでも共用のリビングがあったおかげで、個室だけでなく広く使えたのが良かったです。
大家さんとこんなに話す機会があるとは思っていなかったんですが、面白い方だったし、良い出会いでした。もう1年位いるつもりだったんですが、仕事の都合で京都を離れないといけなくなったので、正直、去り難いところはありますね。

宴は夜まで続く。人によっては途中シャワーを浴びたり、強制力がないのがいい。店で飲むのとは違って、部屋で寝るだけというのが、なんともうらやましい。

前職から換算すると、シェアハウスを50棟以上つくり、運営してきた。そのほとんどが、入居者は働く大人向け、建物はリノベーションを施したものだ。作り慣れると、どうしてもこれまでの概念にとらわれてしまうが、uni.は、私の凝り固まった頭を解放してくれたシェアハウスでもある。たとえば、シェアハウスで生物を飼うなんて、入退去のあるシェアハウスで、本来はタブーである。でもuni.では、餌をあげる人、金魚が亡くなった時も率先して土に埋めてくれる人がいて、成立している。皆が、生活をきちんとしているからこそ、生き物のいる暮らしが叶っている。

シェアハウスというのは一期一会で、元々の建物や街の持つ個性、そして、入居者メンバーと大家さんによって、毎回全く異なる雰囲気が作られる。人生の中でシェアハウスに暮らせるタイミングは、人によってさまざまで、限られた時間だ。一人暮らしで1年なんてあっという間だが、シェアハウスでの暮らしは、たった1年であっても色濃いものになる。そして、大家にとっても、共に過ごす時間は、これまでにない人生に色どりを添えるものになる。これは、投資だけではない魅力である。
その充実した時間の暮らしぶりを見続けられることが、シェアハウスづくりの醍醐味である。

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