西陣の路地裏から、音楽を届け、支える

Second Royal Records
小山内信介(音楽レーベル・レコードショップ 代表)

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HALFBY、Homecomings、Barbaraなどのアーティストが所属する京都の音楽レーベル「Second Royal Records」。その代表を務める小山内信介さんが2022年12月、三条麩屋町のビルの3階からアッドスパイスが企画する「つれづれnishijin」に拠点を移されました。しかも、「Second Royal Shop」なるレコードショップを携えての移転です。集客をねらうなら、アクセス良好な街中にとどまるのが最善策のはず。にもかかわらず、なぜ立地的にもイメージ的にも“ローカル感”が漂う西陣へ? 小山内さんに移転をめぐる変化と進化についてお聞きするうちに、自身を育んだ京都の音楽的土壌を踏み締め、次世代のアーティストたちに寄り添い続ける音楽人の素顔が見えてきました。

床屋のサインポールに「SECOND ROYAL」の文字。木造戸建てを改装したレーベルのオフィス兼ショップは、アッドスパイスが企画した「つれづれnishijin」の一角にある。

―三条麩屋町から西陣に拠点を移されて約1年が経ちました。移転計画は前々からあったんですか?

移転の前年にオフィスを借りていたビルの建て替えが決まって、2022年中に移転先を決めなければならなくて。以前からレコードやアーティストグッズを扱うショップ事業を強化させたいなと思っていたので、むしろチャンスととらえて、物件探しを始めました。

レーベルのオフィス機能を2階に集約させて、1階の土間はショップスペースに。移転前もショップはあったが、その広さは3倍ほどに。
レーベル以外のレコードも扱う。「オリヴィア・ロドリゴとビリー・アイリッシュのポーズがたまたま同じなのがおかしくて」という小山内さんのセレクトにも注目したい。
所属アーティストのグッズコーナーも拡充した。CDが売れない時代、グッズ販売はアーティストの大切な収入源になっているという。

ショップを構えるからには、できるだけ交通の便が良く、人通りもそこそこあって、通りに面しているほうがいいなと思って、街中を中心に物件探しを始めたんですけど、予想以上に難航して。困り果てていた時に行きつけの美容室の人から教えてもらったのがこの物件だったんです。オーナーさんが同じ美容室に通っているみたいで。

―すごい偶然でしたよね。その後、内見に来られてほぼ即決で入居を決められましたが、どのあたりが決め手になりましたか?

一目見て、「自分が理想としていることが全部できる」と思いました。広さや間取り的にレーベル事業とショップ事業をいいバランスで両立できそうだし、ここでならインストアライブであったり、お客さんがコーヒーを飲みながらレコードを探したりっていう、自分が思い描いていた通りのショップをつくっていけそうだなって。

小山内さんは大学卒業後、異様な品揃えで京都の噂になっていた「TSUTAYA西院店」の店員として働きつつ、その傍らで京都メトロの名物イベント「SECOND ROYAL」をオーガナイズしていた。イベント名を受け継いで今のレーベル事業を始めた。

西陣は学生時代を過ごしたなじみの街ですが、お客さんがここまで来てくれるのかという不安も当然ありました。でも、それを一瞬で掻き消してしまうぐらいの魅力をこの物件に感じましたね。

―そんなに気に入っていただけたとは! ただ、ひとつ気になるのは、今おっしゃった立地面の不安要素。オープン後、お客さんの入り具合はどうですか?

予想外と言ったら何ですけど、以前よりも増えたんですよ。前のオフィス兼ショップを知っている人だけでなく、近所の学生からご年配の方まで幅広い年代のお客さんも来てくれています。受験を控えた中学生がお母さんと一緒にやって来て、レコードを買って帰る時に「これで勉強頑張れそうです!」なんて言ってくれるのも、この場所ならではだなぁと。
これまで2回実施しているアーティストを招いてのインストアライブも、おかげさまで毎回SOLD OUTでした。お客さんがここで何かに出合って、ものを買ったり生の音楽に触れたりすることによって心が動く、思い出になる。そんな音楽体験の場になりつつある手応えを感じています。

インストアライブの様子。ライブハウスとは異なる距離感は、こぢんまりとした建物ならではだろう。【写真提供:Second Royal Records 】

―以前、レンタルスペースである蔵の活用方法について入居者のみなさんに相談した時に、小山内さんは真っ先に使いたいと手を挙げてくれましたよね。そして実際に「OUR LOCAL」と銘打ったバーイベントを継続的に実施されていますが、どういう思いで始めたんですか?

蔵の存在を知った時から、自分たちで何かやりたいと思ってたんですよ。中までキレイに改装されてミニキッチンも付いていたので、音楽バーみたいなことができるんじゃないかと思って、うちに所属するバンドのメンバーで、バーテン経験もあるマル君に声をかけてみたら「やります!」と言ってくれたのが始まりです。
ゲストを呼んで大々的にやるというより、マル君みたいな若手のミュージシャンや地元の音楽好きの人たちが一緒に楽しめる場にしたくて、「OUR LOCAL」と名付けました。各々好きな音楽をかけながら、マル君がつくるお酒を飲んでしゃべって……いつもそんな感じでユルくやっています。

「OUR LOCAL」はつれづれnishijinの蔵にて不定期開催。DJをやりたい人がやり、聴きたい人が聴く、音楽を届ける側と受け取る側の境界をなくした、もう一つの音楽体験の場といえそう。【写真提供:Second Royal Records 】

―マル君というバーテンありきのイベントだったんですね。所属アーティストとの距離感が近いというか、小山内さんの寄り添い方が素敵だなと思いました。

レーベルとしてはもちろん音楽性や楽曲のクオリティが一番大事なんですけど、人柄とか音楽への向き合い方の部分も結構見ているほうですね。マル君の場合、バンドを2つかけ持ちしながら昼間は普通に働いて頑張っているし、前にバーテンの仕事が好きって聞いていたので、何か後押しできればいいなと思って。

音楽好き以外にも気軽にのぞいてもらえるレコード屋を目指して、コーヒーを提供できるブースも準備中だそう。

―本業のレーベル活動のほうで何か変化はありましたか?

移転による変化というより、時代とともにレーベルのあり方みたいなものが変わってきていますね。ストリーミングで音楽を聴くのが当たり前になって、アーティストはレーベルを通さなくても多くの人に自分の曲を届けることができる。じゃあ、レーベルの存在意義は何かというと、「信頼感」だと思うんです。たくさんのアーティストあるいは楽曲の中から、このレーベルなら面白そう、聴いてみたいっていう安心材料、ある種のキュレーター的役割を担っているのではないかと。特に僕らみたいなインディーズレーベルはその色合いが強い気がしますね。

所属アーティストのHomecomingsも、ショップのお客さんとして訪れていたことが出会いのきっかけに。開かれた場をもつことが、レーベルとしての価値を高めてきた。【写真提供:Second Royal Records 】

―小山内さんと親交のあるbud musicさん然り、京都は小さい街ながら複数の音楽レーベルが存在し、多くのアーティストを輩出しています。京都にはアーティストの成長に適した音楽的な土壌があるんですかね。

京都って狭い街に大学がいくつもあって、毎年入れ替わり立ち替わり若い人たちがやって来るので、彼らがやりたいことをやらせてくれる寛容さが昔からある気がします。音楽で言えば、メトロとかnanoみたいなハコがあって、やりたいと言えばいろいろと相談にのってくれる大人たちもいる。僕も学生時代にメトロきっかけで音楽にハマり、メトロつながりの方々に育ててもらったクチなので、それはすごく実感します。

その恩返しではないけれど、京都で音楽を頑張っている若い人たちを今度は自分が支えたいという思いはありますね。自分が引っ張るというより、一緒に考えたり何かを作ったりして、寄り添いながら支えるイメージですかね。

―頑張っている人に寄り添うスタンス、私たちも大事にしたいと思っています。ちなみに、レーベル所属アーティスト以外で小山内さんが寄り添っている京都のアーティストの中で一番の推しは?

幽体コミュニケーションズという2019年に結成された3ピースバンドですね。うちの所属ではないんですけど、2年ほど前に自作のCDを持ってオフィスを訪ねてくれて以来、CDの販売やアナログ盤のリリースなどをお手伝いしています。出会った当初から伸びるだろうなと予感していましたが、去年は「FUJI ROCK ROOKIE A GOGO」に選ばれるぐらい勢いがついてきて。本人たちも今年からバンド活動に注力すると意気込んでいるので、うちでぜひまたインストアライブを開けたら良いなと思っています。

幽体コミュニケーションズの新曲「ミュヲラ」の7インチ・アナログ盤も「Second Royal Records」からリリース。アーティスト自作のCD-Rはすぐに完売したという。

インタビューを通して見えてきたのは、小山内さんの若手アーティストに対する寄り添いの姿勢。ビジネスの枠組みを超えた有機的なつながりをもち、やわらかな光で彼らを照らす、月のような存在の仕方に共感を覚えました。若い才能と熱意にあふれた人々を支える、小山内さんのような京都のオトナによる「場づくり」。私たちが果たすべき役割をまた一つ、再確認できました。

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