ニュートラルなシェアハウス
- 京都市上京区東神明町
シェアハウス+店舗付き住居の複合用途
海外生活の長いオーナーから、代々所有している自己物件でシェアハウスを作りたいという依頼があった。建物は、もともと紡績工場として建てられ、その後、先代で学生寮を営まれていた。住宅部分の一部は、元米穀店で、備蓄倉庫として使っていた大きな防空壕もある。歴史が折り重なった面白い建物である。
シェアハウスだけでなく、オーナーの奥様が喫茶店を開く意向があった。元学生寮をシェアハウスに、元米穀店部分を喫茶に、一棟の建物に、シェアハウス・店舗(喫茶)付き住居を併設という、既存用途位置を極力変えない構成に決まった。
「いわゆる京都らしさは不要」
初回ヒアリングで、オーナーから「いわゆる京都らしさは不要」と言われた。当時、インバウンドでにわか宿ブームで、チープな京都解釈をしている建物が多く、オーナーはそれを懸念していたと察する。いわゆるではない京都らしさを考えてみた結果、この西陣の街の特徴である、歴史を重んじつつも革新的、老若男女・個性的な面白い人が集まり、長期的にゆるやかな大家と店子の関係こそ、京都の良さなのではないか。そのような意図で、「ニュートラル」をテーマにした。
オーナー夫妻自身がテーマ通りの、「ハイカラで新しもん好き」なクリエイティブな京都人。また、シェアハウスオーナーにぴったりの、さっぱりとチャレンジ精神のある人柄であることから、全面的にオーナーに前に出て関わってもらうことにした。シェアハウス入居者・オーナー・西陣の街が、喫茶や中庭という交わる空間を共有することで、京都らしいゆるやかなで確かな距離感で過ごす。
シェアハウスは一生住むわけではないが、ときとして良い出会いに恵まれる。そこで、「人生の寄り道」にしてもらいたいとの思いで、「PATHTO」(PATH:寄り道の造語)と名付けた。
難易度の高いシェアハウスに最適なメンバー
代表の岸本は、東京で40棟ほどシェアハウスの企画・運営経験があったゆえ、まだまだ関西におけるシェアハウスニーズは少なく、投資としても容易ではない、と実感している。一般賃貸と同額程度の賃料のシェアハウスを作る必要があり、一般賃貸以上の価値を作り出すことが必要である。
そこで、東京で多数のシェアハウスの経験のある建築士に依頼。弊社岸本も同時代にシェアハウスの経験があり、互いの経験を共有して作り上げた。
グラフィックのデザイナーは、京都のシェアハウスに住んでいたことがあり、まさにターゲット層の暮らしをしていたことから、肌感覚の分かる提案をしてくれた。
工務店も、木造戸建てに強く、細かい仕上げや造作家具に明るい工務店を選定。全員30代の作り手チームで挑んだ。
ダイニングキッチンに焦点を絞る
万人受けは目指さず、グッとくる人にはグッとくるシェアハウスにすることを主軸におき、基本設計~~詳細設計と進めていった。個室や共用部のプランは必然的に決められていき、ダイニングキッチンが横長の空間にならざるを得ないことから、リビングを置かず、オリジナルのキッチン台をメインにすることとした。せっかくなので、柄の一枚板で特徴づける。カラーミラーも特別感と広さを演出する。個室の壁・床の色も決して真っ白ではなく、ニュアンス色で、入居者が自分らしく手を入れやすい空間にした。結果、性別や年齢、国籍を問わず、テンションが上がる日々を送りたくなるような空間が作り出せた。
特徴あるデザインで、トーンの近い入居者が集まる
工事中から、デザイナーによるイラストパースでDMなどで募集を開始。オープン時がコロナ初期という厳しい市況にもかかわらず、完成前から入居者が決まる。また、特徴のあるデザインだからこそ、入居者が自然と選定されていることを実感。自分を持っていて、熱中しているものがある、想定していたターゲット層が集まった。男女・年齢・国籍などの属性ではなく、トーンの近い人が集めることができた。
シェハウスが容易ではないと分かっているからこそ、デザイン・企画・喫茶店併設のしくみ・オーナーの人間性を前面に出すなど、総動員して数年たっても満室稼働を続けることができている。
Overview 概要
- プロジェクト名
- PATHTO
- 期間
- 2019年11月~2020年5月
- 所在地
- 京都市上京区東神明町
- 規模
- 木造2階建て
- 用途
- シェアハウス6
- 設計
- SWAY DESIGN
- 施工
- 椎口工務店
- ヴィジュアルデザイン
- 鮒池涼香
- WEB制作
- 岡本綾
- 写真(TOP写真)
- 表恒匡