Column

京都でクリエイターという街の資源を絶やさないために

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時流を読んだ企画をウリにしてるけど、これってすごく難しい。
東京の時は、5年前後の投資回収だったからある程度予測できたけど、関西(首都圏以外)はその倍くらいの投資回収になるので、10年それ以上のスパンで予想して、企画せねばならない。10年というのは、政治・経済の動きも大きく変わり、人の嗜好も変わる。三浦展さんから学び、だいぶ時流予測の訓練をしてきたと思うけど、それでも難しい。

あるプロジェクトでは、色のついていないエリアの雰囲気や芸大移転の計画、建物の特性から、シェアアトリエを作った。家から初めてアトリエを持つような、これからのクリエイター向けの。コロナ真っ只中ではしんどい時期もあったけど、今はまた満室。実は、今が最も、私が当初想定していたようなメンバーなのだ。昔の自分のような独立して勢いのあるスタイリストの子に、私も仕事の相談をしたりしている。投資回収はとうに終わってるけど、6.5年経った今、利用頻度も上がり、各々の目的も明確で、建物も生き生きとしている。

別のシェアオフィスは、街中で自分に集中できる空間を徹底して作った。リモートの流れもあるし、都市の喧騒を忘れられる自分と向き合う空間は、昔から人々(とくに京都人にとっての茶室)が求めてきたからだ。1人席メインにしたが、はじめは複数人入れるグループ部屋ばかり人気だった。一年経って、1人席がまさに想定してた入居者層が次々と入居し始めた。

時代を早く読みすぎてもニーズは無いし、もちろん遅すぎたら使われない。ただ、経験から言えるのは、その土地に普遍的に求められていて、でも世の中にないものは必ずある。空間だけじゃなく、何でもそうだろうけど。

京都では、職人や作家といったクリエイティブを業とする人が、昔から今に至るまでずっと多い。ただ、その人達に普遍的に求められていて、でもちょうどいい箱は案外足りていない。
これまで、広義のクリエイターとたくさん接してきて、やっぱり彼らの活動や考えは面白いから、付き合ってて楽しいし、これが一番京都で仕事していて自分が健やかに働けるポイントだと思ってる(私自身も広義のクリエイターの一身と言えるのかもしれないが)。だから、彼等の活躍できる場をなんとかしたいという思いが、自身のモチベーションにある。それは、行政や補助金頼みではなくて、もっと身近な切実な理由で、良い活動の場所がなかったら、みんな京都を離れていくからだ。

クリエイターと一言で言っても、多様な人がいる。支払える賃料も異なるし、必要とする場も異なる。おおよそ支払う賃料別に、3万円以下をこれから層、3~15万円を食えてる層、15万円以上を売れてる層として分けてみた

これから層は、初めて場を持つような人。せっかく京都で学んで、京都で活動したくても、場所がなかったら離れてしまう。場所があったら、未だここで頑張ってみるかという気にさせる。不動産にはそういう力があると思う。

一方、売れてるクリエイターも、京都に魅力的な場所があれば借りたり買ったりする。外の人を嫌がる京都人もいるけど、高額な町家を借りてくれるのは、やっぱり東京で活躍している人だったりする。町家を潰れることを嘆くのは分かるが、維持するには適切な人に貸していく方法も必要で、それには、魅力的で支払い能力のあるクリエイターに、京都に場をもつ価値を見出してもらう必要がある。

その間の最もコア層である”食えてる層”。彼らがここでなら自分を試したいと思える場所も、もちろん必要だ。

特筆すべきは、どの層も京都という街において大事な資源だということ。これからの人も、すでに売れてる人も。みんながこの街で育ち、自分らしく活躍することが、京都の未来にとって大事なことだ。
これまで、それぞれに必要とされる場を足掛け8年ほど作り続けてきた。特に、ものづくりの作家系の人向けのグラデーションを中心に作ってきたが、デスクワーク系のデザイン業のグラデーション、飲食のグラデーションと、広義のクリエイターと考えると、様々な種類がある。

グラデーションに合わせた場を網羅できていると、これから層だった人が軌道に乗り食えてる層に行く時にも手助けできる。例えば、売れてる層からこれから層へ、雇用が生まれたり、業種を超えた同層での協業といった循環もあるかもしれない。

今は、菓子製造に特化した、セミプロ向けの週貸しシェアキッチンを計画している。これから層向けの、手づくり市やマーケットでファンもでき始め、店を持ちたいけどそれまでの期間を担う場がないから、それを作ろうとしている。これは、長年この街で必要とされてきた、今後も必要とされてきた場だと思って企画している。世界文庫アカデミーの講師や日々の仲介でも実感しているから。
ただ場を用意するだけでなく、窯元との器のコラボ、映える屋台の貸し出し、資金計画のレクチャーなど、あると嬉しい仕組みも盛り込む。
同時に、京都出店を狙う売れてる層のテストキッチンも兼ねる。そうすると、横のつながりで情報や助け合え、縦のつながりで雇用が生まれる。場が循環機能となり、クリエイターが育つ環境が醸成する

クリエイティブな入居者さんで、この人とこの人が繋がったら面白いかもしれない。という期待はありつつも、そこで止まってしまっている。何か1枚目の図(いうなればコミュティ?)をゆるく包括して行き来できる装置があるといいのだが。思案中で、良い案があればどなたか教えてほしい。

*この記事は、2022年12月の記事を転送しています。

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