木賃アパートは民藝
今秋、第40回住まいのリフォームコンクールと第7回日本エコハウス大賞という、グッドデザイン賞の派手さはないけどなかなか獲れない賞に、ダブルで最優秀賞を獲ることができた。
受賞したプロジェクトは、tedeという木造賃貸アパートの改修。最後の1人となった木賃アパートを、1階を仕事場と共用ラウンジ、2階を気の利いた単身住居へと変えた。
特に、エコハウスの方は、木造の改修、しかも賃貸で1位は相当の快挙だそうで、我々はエコハウス業界に全く知られていないため、グランプリで呼ばれた時はオンラインですらも萎縮してしまう雰囲気であった。受賞に関しては、設計の村上くんのおかげなのだが、彼によると、M1でマジカルラブリーがいきなり優勝したばりの出来事だと教えてくれた。
エコハウスの最終プレゼンの後の飲み会で、審査員のひとりであるブルースタジオの大島さんに「木賃アパートは民藝だと思ってる」と言われた。「木賃アパートは、時代を見てきた街の遺産。生活文化の蓄積にある用の美は、まさに民藝。tedeは、美しい民藝の器にフレンチが盛り付けられたようだ」と。ちなみに大島さんは、東京民藝協会の監事をされている。
私には、独立当初から木賃アパートの相談が多い。人口の1割が学生の街京都では、新しいワンルームの競争に負けて、木賃アパートが余る。東京時代は社員寮だったし、地域や時代によって、ストックは必然的に決まってくる。
が、文化財級の立派な建物の依頼なぞ私には来ず、独立して何年経ってもずっと、こういう誰にも目を向けられなかった建物にしか依頼が来ないのかぁ。とずっとどこかでコンプレックスだった。
次いで、生涯仕事をして、関われる人生の数って多くて10000人程度なのかな。とか、社会課題解決と思ってるけど、自分の規模のしょぼさに辛くなることも多々あった。ゆえに、本気で転職を考えたことも昔はあった。
でも、自分の仕事が、想い続けてきた民藝と遠くないと想定外の言葉をかけてもらい、これが自分の役割なのかもしれないと、救われる思いがした。
立派でなくても、普通の人が作り使ってきた物だからこそ、時代に必要とされる物に変えていける。
大勢の人を救えなくても、こういう社会的評価で、新たな価値基準を提起できることも、大事な役目だと今は思える。
授賞に際して企画書を見直したら、tedeの前に「用の実」という用の美をもじった物件名を提案していて、何か予知っていたのかと自分でも驚いた。
定期訪問している河井寛次郎記念館に改めて訪れてみた。これまでと見え方は違い、時代と地域の遺産を生活に取り戻していく力をもらった。私以外の来訪者は、30オーバーの欧米人ばかりだった。
*この記事は、2024年1月の記事を転送しています。
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