人生双六の無い、これからの私たちは
最近各所で講演に呼ばれるたびに、しつこくこの生態系図を使って話しているのですが、これがやたらと好評で、色々感想をいただいています。
この生態系図は、「クリエイターと一言で言っても、多様な人がいるし、人が循環することに意味がある」という図。
場に支払える賃料も異なるし、必要とする場も異なるので、「これから層・食えてる層・売れてる層」として分類した。特筆すべきは、売れてる層・食えてる層・これから層のどの層も、街において大事な資源だということ。みんながこの街で育ち、自分らしく活躍することが、街の未来にとって大事なことだ。
たとえば京都に限ると、人口の1割が学生なのだが、せっかく京都で学んで京都で活動したくても、場所がなかったら離れてしまう。
クリエイターも、場所があったら、未だここで頑張ってみるかという気にさせる。不動産にはそういう力があると思っている。
グラデーションに合わせた場を網羅できていると、これから層だった人が軌道に乗り、食えてる層に行く時にも手助けできる。例えば、売れてる層からこれから層へ、雇用が生まれたり、業種を超えた同層での協業といった循環もあるかもしれない。
そんな意味を込めて作った生態系図であった。
で、本題はここから。
その図を作っていた時には失念していた視点だが、どんどんこの図の上に昇っていこうというのが、もはや昭和的価値観なのだ。
「不動産を借りて(若しくは買って)店を構えること」が当然の最終ゴールのように思われがちだけど、皆が皆、店を持つことを求めているわけではない。実力があっても、店を持たなくてもいい。何年待ちのパン屋さん、ヒヨリブロートの塚本さんは、最初から店を持たず通販のみを前提としていると、本で読んだ。
高度成長期に作られた住宅双六のように、一軒家を建てることが、今や最終ゴールではなくなったのと同様に、だ。
先日会った同業の友人は、不動産を10棟は持っているけど、最終的にはキャンピングカーで暮らしたいと言っていた。
これは、場所を設える側において、非常に大切な観点だと思う。それぞれの人生のタイミングで、必要な場は変わる。みんな同じゴールを描いていると勝手に決めつけていると、市場の価値観とずれて危険だ。
また、若き不動産所有者が40才近くにもなると周りにも増えてきて、不動産を所有することの意味も変わり始めている。俺は買えるんだ!から、やりたい事を試してみたいツールに。私もそんな感じでビルを買ったから、ここはよく理解できる。
一般的には、売れてる層を相手にすることが儲かると思われてきたが、もはやそれも怪しい。生態系図のように全体を包括して考えることが、長期的な利益にもつながるのではないだろうか。
これまで、京都では、それぞれに必要とされる場を10年ほど作り続けてきた。特に、シェア型は、15年以上社会人になってずっと作ってきた。シェア型は、何かと人生の途中のお金がない時期にと思われがちだけど、全くそうではない。人生のタイミングで、積極的に選択している人がたくさん存在していることを声を大にして伝えたい。
そんなことを考えて、いま、菓子製造に特化したシェア工房を計画している。
一度ポシャったが、別の建物(北区と上京区の間あたり)で、良いお話に巡り逢えてリベンジ。今回はアッドスパイスががっつり企画・運営として入ることが決まっている。
店を持つことがゴールではないと考える典型例は、お菓子を作るママさんだからだ。飲食やお菓子屋さんで勤めていたが、子育てで辞めて、自分なりのお菓子を作りたい人。同業の知人の運営する岡山市内のパブリックカウンターも、菓子製造に特化すると聞き視察に伺ったが、やはりママさんが多いそうだ。
莫大な初期投資をかけてまではできないけど、自分のお菓子を作りたい人。周りはお店を持てばいいのにと言ってても、それがその人にとってベストかは別問題。頑張っていけるとこまでいきたい派な私も、母親になって少しは分かったが、自分のできるめいっぱいを目指すことが幸せとは限らない。自分だけの人生でなくなったとき、全てはバランスだ。
人生双六のない私たちの道は荒野だが、だからこそ、バリエーション豊かな寄り添いが必要なのだと思う。
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