工房兼住居の需要、想像以上
今年の初めから、つれづれnishijinという職住一体群のプロジェクトを西陣で行っていた。
工事が完成したのはお盆前だったが、工事前から募集を始めると、実に多くのものづくりの方々が内見に来てくれた。陶芸・金工・木工・家具・建築・デザイン…と多様だった。東京からの方も珍しくなかった。
いかに世の中に、「工房兼住居で使っていいですよ」と言ってくれている物件がないかを思い知った。偶然、知人が内見してくれた際、「工房兼住居、京都ではみんな狙ってるし取り合いだよ」とこっそり教えてくれた。

つれづれnishijinの工房兼住居の3区画
工房兼住居は3区画・店舗は2区画だったが、工事完成一ケ月後には5区画全で成約した。あっという間だった。総入居問合せ数は、3区画に対し40件程に至った。
工房兼住居のニーズがあると思ってオーナーさんに提案し企画させてもらったプロジェクトだったが、ここまで需要があるとは…と思い知った。
この街で確実に工房兼住居を求めている人がいるなら、それはつくるべきなのではないか。受け入れる環境が無いと、良いものづくりの人材が、もしかしたら京都から出て行ってしまうのではないか。
その使命感と危機感がはたらいた。
歴史・地域性・不動産解釈からして、西陣の街に合っている
それと、この西陣の街に住み働き、暮らして5年が経ち、この街とも相性が良いと思ったのも、理由にある。
西陣を長らく支えてきた西陣織産業は、住まいと仕事場が一緒になった職住一体型の家に住む職人たちが支えてきた。この街は、住むと働くが地続きで、建物も人も、それを受け入れてきた。だから、今の私たち若い新参者でも、職住一体には優しい。うどん屋やパン屋が充実しているし、Tシャツで図面とにらめっこしながら、喫茶店でコーヒーをよばれてても浮かない。そんな雰囲気に吸い寄せられて、実力派の若い店主の個人店も多い。
世代や出身ではない、ものを作っている・自ら経営している、といった共通項が、この街に暮らす人の水面下での安心材料になっているのかもしれない。
不動産的に見ても、少し不思議な街だ。一般的な不動産は重要な立地(交通の便)でいうと、最寄りの電車の駅は無いに等しく、決して良くはない。店舗としても商圏としては弱い。宿泊に関していうと、街の異常な拒絶がある。私の考察では、自分達の街が短期的事業により消費されることを恐れているように見える。一方で、住みながら商いをする場合は受け入れられやすいという事実がある。この街に根差す覚悟がモノサシになっているのではなかろうか。
ここまで検証し、この西陣の街で工房住宅を作るというのは、歴史・地域性・不動産解釈から見ても、積極的・消極的に判断しても相性が良く、必然でしかないのだ。
ものづくり(広義の)をフィルターにした街づくり

西陣の目指すべきまちづくりの指針
街の人が望んでいないものを作るのではなく、街の人に寄り添った「ものづくり」という軸。その新しい人に、この街の中で住み働いてもらい、産業を引き継ぐのではなく、ものづくりのマインドを継承して発展してもらう。ここでいうものづくりは、実際に手で何かを作っている作家だけではなく、写真家や建築家など、クリエイティブな視点を持って仕事をしている広義のものづくりを指す。
そういった、世代・出身を問わず「ものづくり」をフィルターにした街づくりが、この西陣の街らしいのではないだろうか。
あたらしい職住一体のしくみを建物を活用してつくる
それをかなえる手法はひとつではないと思うが、私が考えているのは、「使われなくなった西陣の家を工房住宅」にするというもの。イメージはこのような形。弊社アッドスパイスが、活用案を計画し、設計デザイン・リーシング(仲介)・管理まで一括して行う。活用の事業パターンも、取得・コーディネート・サブリースと、所有者の状況に応じて提案することができる。そうやってマイクロデベロップメント、つまり限定されたエリア内で好循環を目的とする開発事業者になることで、工房住宅が街中に増えていく。元々の織産業と組める業種もあるかもしれない。

プロジェクトイメージ図
そこそこ収益を得ながら、かつ街に貢献できる
これは、決してボランティアではなく、オーナーはそこそこ儲かる仕組みになっているのが重要なポイントだ。関西の不動産の事業投資は、5~10年で計画できれば合格ラインだが、概ね8年以内では投資回収できるよう算出している。工房住宅は、希少性から居住年数が長いため、ほぼ1回転で投資回収が可能となり、数字として悪くはない。
そして何より、「若いものづくりの人が活躍できる環境を提供できる」という魅力。西陣の街にも貢献でき、西陣の未来の人にも貢献できる。そして、そこそこ収益を得られる。
高投資の学生マンションや、その場しのぎのコインパーキングといった活用と比較して、魅力的ではないだろうか。

オーナー・入居者・街3方良し
所有者や建物状況に合わせて、作り変えられる
そして、ものづくり層と一言で言っても、実際のところ、求める場や賃料は人により異なる。

建物の状態と改装費用の掛け合わせで多様なモノづくりクラスタに向けた商品をつくれる
たとえば、10万円程度の家賃が払えるものづくり層も実際存在する。カメラマンや大学教授などだ。一方で、芸大生やアルバイトと好きなことで生計を立てている層もいる。海外のものすごくVIPな作家向けのものだってあってもいいかもしれない。
建物の既存の状態と改装費用の掛け合わせで、多様なものづくりクラスタに向けた商品をつくれる。それは非常に魅力的である。
また、私の方では既に、借りたいという人は抱えている。物件情報があり次第紹介するためのフォームも作成しており(https://forms.gle/
この西陣の地で工房住宅をつくるのは、私の個人的な想いもある。私は、西陣にある事務所を公募プレゼンで応募し入居したのだが、そのプレゼンが、「若いものづくりの人と地元をつなぐ」というプレゼンだったのだ。本来はものづくりの人でないと入居できない条件だったのだが、そこをプレゼンで強行突破して借りさせてもらった。
私にとっては、使命のひとつでもある。